もし声を掛けて返事が無かったら・・・・・・、という恐れがあった。




 しかし、しばし戸惑うように立ち尽くしていた平治は、やがて意を決し、奥に向かって声を掛けた。




「親父!

居るんだろ!

俺だよ!平治だ!」




 返事が無い。




「親父っ!?」




 やや焦ったように大声を張り上げる。




 平治が、一歩踏み出した。




 すると、奥のほうで、ゴホゴホと咳込むのが聞こえた。




 平治の胸がしくりと痛む。




 しかもその痛みは、咳込んでいる本人が出て来た時、最高潮に達した。




「誰だ?」




 弱々しくかすれた声と共に、痛々しい程やつれた初老の男が出て来た。




 平治は初め、別人だと思った。




 次いで、この人はこんなにも小さかっただろうか、と思った。




 そこに立っているのが、平治のよく見知った人物だとは認めたくなかった。




「親父・・・・・・」




 食事はどうしてるんだろう?




 ちゃんと食べているのか?と、そんな不安を覚える。




 平吾は、平治を見ると、微かに目を見開き驚いた様子を見せた。