平治は、人目を忍ぶようにキョロキョロしながら実家の近くまで来ていた。




 時折出て来る長屋の住人をさりげなく避けながら、実家まで行く。




 そんなに長い間離れていたわけでもないのに、見慣れたはずの我が家の前に立つと、やけによそよそしく感じられた。




 それには、平治の知っている活気というものが全く無くなっていたせいもある。




 いつも聞こえていた、威勢の良いだみ声も、鎚打つ音もまるで聞こえない。




 実家の前に立ち、平治は嫌な予感に囚われた。




 もはやそこには生ある者が居ないのでは、と思わせるような静けさがあった。




 そんな不吉な予感に背中を押され、平治は躊躇いながらも実家の戸を開けた。




 中も静まり返っている。




 そして、ひんやりとしていた。




 平治が知っている頃は、そこはむせ返る程の熱さがあったというのに・・・・・・。




 怖ず怖ずと中に入って行く。




 声を掛ける勇気が、なかなか出て来ない。




 それには、喧嘩をしているという気まずさと、そしてもう一つ・・・・・・。