「バ・・・・・・バカな!?

親父が、あの病気に!?」




 断十郎は、平治のうろたえ方が普通ではないように感じた。




 だがそれは、ぼんやりとした勘だ。




 明確なものではない。




 しかし断十郎は、“何か”について確信していた。




 もっとも、不思議な話だが、その“何か”が何なのか分からない。




「平治・・・・・・。

帰ってやれ。

このままでいいのか?

おめぇだって気掛かりだろう?

とっつぁんだって、おめぇが帰ると嬉しいはずだぜ!」




 断十郎の言葉に、平治が顔を歪める。




 心の奥にあるものを直撃された。




 胸が痛む。




 だが・・・・・・。




 今の平治には、素直になれなかった。




「親父が、今の僕に会って、嬉しがるはずなんてありませんよ!」




 平治の態度は頑なに見えた。




 だが断十郎には、それが後ろめたさの顕れであるように思えた。




「すいません。

断十郎の旦那」




 平治は、表情を歪めたまま、逃げるように断十郎の前から走り去って行った。




「あっ!?おいっ!

平治!」




 断十郎の咄嗟の呼び掛けも間に合わない。




 平治の後ろ姿を見送る断十郎の目は、平治と平吾を気遣うように憂いを帯びていた・・・・・・。