断十郎が、若い男のあとをつけている。




 若い男は、平治だった。




 平治が、よく出没する所を甚兵衛に調べてもらい、そこを張っていたのだ。




 今居るのは、人気の無い、うらぶれた長屋だ。




 この中のどこかに、強盗団も居るのかも知れないが、今日の断十郎の目的は、平治だけだった。




 平治と話をする必要がある。




 断十郎は、そう感じていた。




「平治!」




 いきなり名前を呼ばれて、平治が驚いたように振り向いた。




「断十郎の旦那・・・・・・」




 平治が、ギクリとした表情になった。




「なぜ、ここに・・・・・・?」




 そして、うろたえたように問い掛ける。




 断十郎が、平治の緊張をほぐすため、にこりと笑う。




 だが、その笑みはどこか固い。




「なに、お前をここら辺で見掛けたっつう話を聞いてな。

それで、少し話がしたいと思ったんだ」