闇の中に佇む男が、月明かりに照らされて、その姿をあらわにする。




 凪は、その姿を見て、昼間会った男だと悟った。




 少々、バツが悪い。




「何者だ!?

てめえは!」




 強盗団の一人が怒鳴り付ける。




 凶悪な様子で、牙を剥き出しにした。




 だがその男、甚兵衛は、明らかに異常な事態を前にしながら、ニッコリと笑っている。




「私は、ただの仏師です。

以後、お見知り置きを」




 平然とそう言った。




(ただの仏師が、こんな状況で、こんなに平然としてられるわけない!)




 凪は、心の中でそう思ったが、甚兵衛のその態度は、頼もしく感じられた。




 しかし、強盗達にとっては、得体の知れない邪魔者だ。




 妖に変化した自分達を見て、平然としていられるような人間は、ただ者であるはずがない。