夜更け。




 闇の中を少女が一人、駆けていた。




 花鵠城下のこの辺りには、豪商の屋敷が建ち並んでいる。




 そのうちの一軒の屋敷の前で少女は止まった。




 少女が居るのは、店の裏側で、屋敷の周りを高い塀がぐるりと囲んでいる。




 人気は、当然だが、無い。




 屋敷を眺める。




 その顔を月明かりが照らした。




「う〜ん。

けっこういい月が出てるなぁ。

ま、凪には関係無いけど!」




 少女は、自分の名を自分で呼んで、月を見上げた。




 もうじき、満月になろうか、という月だ。




 見た目には、僅かに欠けているのが分かる程度だった。




 そのため、夜中であっても、かなり明るい。