それを見て、藤内の視線からもふざけた様子が消える。




「山の妖が、人里に下りて来て、何を企んでおるのじゃ?」




 藤内の問い掛けを冷ややかに受ける。




「藤内。

貴様のほうこそ、人里に入り浸っているようではないか。

我等が何をしようが、貴様には関係あるまい」




 藤内が、彝経九郎の内面を見透かそうとするかのように、じぃーっとその目を覗き込む。




「近頃、城下で病が流行っておってなあ。

どこぞの妖が山から持って下りたらしいわ。

お前の企み事か?」




 彝経九郎が、藤内を一瞥する。




「さあな。

貴様には関係あるまい」




 そして、短く言った。




 その言葉に、藤内が舌打ちする。




「お前とおると、酒がまずくなるわ!」




 吐き捨てるようにそう言って、店を出て行った。