ニンマリと笑って、舌なめずりをする。




 獲物を見付けた肉食獣のような表情になった。




「美味そうだ。

ここにしよう!」




 少年は、そう呟くと、店内に足を踏み入れた。




 店内は、夕飯時が近いこともあって、思いの外、混み合っている。




 町人や職人、浪人風の男達でひしめき合っていた。




 もっとも、少年ぐらいの年齢の者は、当たり前だが一人も居ない。




 少年は、明らかに浮いている店内を、まるで意に介さず歩いていった。




 不思議なことに、誰もそんな少年を見咎めない。




 しかも不思議なことに、少年が席の一つに近付くと、そこで食事をしていた男達は食事を止め、雑談をしながら立ち去ってしまった。




 男達は、少年に気付くことすらないようであった。