何も見えないはずだが、それでも、その男は小窓の傍から離れようとはしなかった。




 やはり、小屋の中にたゆたっている煙を嫌っているのだ。




「おい、平治!

お前もこっちに来て一服やれよ!

気持ち良くなるぜ!」




 男の一人が、窓から外の暗がりを眺めている平治に声を掛けた。




 平治もまだ、二十代半ばといった年齢だが、囲炉裏を囲んでいる三人の内、二人は平治と同じくらいの年齢のようだ。




 平治に声を掛けたのは、正六(セイロク)という、商家の息子だ。