その日も、姫に戦場の話をしていた。

「昨日は隣国近くの祓川まで行きました。
あちらの手勢は大した数ではなかったので、蹴散らしてやりました」

身振り手振りを交え話す俺に、姫は最後にこう言った。

「そうですか。
よく無事に戻られました」

そして微笑みながら、安心したように小さく頷いた。


いつもはここで書物をひもとき、俺はお役御免になるはずなのに、姫は書物に手を掛けたまま、開くことなく視線を泳がせた。

まるで何かを言おうかどうか迷っているかのように。

そしてそれは間違いではなかったらしく、意を決したように姫は俺の顔を見た。