「そうか…」

女のような長い睫毛に彫りの深い顔をした男は、空を見上げていた。

「おい!ジェース!さっきから、何空を見上げてるんだよ!人が必死に、学校の場所を探しているのにい!」

少しヒステリックになる妖精の名は、ティフィン。

しかし、カレンの興味は…塀の上に立つ男に向けられていた。

まったく気配を感じさせなかったその物腰は、カレンの気を引くのに十分だった。

「天使が…」

少年は徐に、話し出した。

「天使?」

顔をしかめるティフィン。

「ああ…天使が飛んでいった」

男の言葉に反応して、カレンは声を出してしまった。

「アルテミアか…」

カレンの口から出た言葉に、ティフィンは反射的に顔をカレンに向けた。

「あ、あ、あ、アルテミアだと!」

そして、震える声でその名を反芻した。慌てて羽を広げると、上空に飛び上がった。

「し、しまった!学校を探すのに夢中で、気を探ってなかった…って言うか!」

ティフィンは降下すると、ジェースの目の前まで来て、

「気を探るのは、あんたの役目でしょうが!」

ジェースの頬を蹴ろうとした。

しかし、ジェースはそれを避けると、塀から飛び降りた。

「アルテミアが天使とは聞いていない。いけ好かない…嫌な女としかな」

カレンの前に、着地したジェースは上に浮かぶティフィンを見上げた。

「!?」

カレンは驚いた。同じ目線で見ると、意外と若いことがわかった。

「そ、そ、それは〜」

アルテミアのことを結構悪く説明していたティフィンは、口ごもった。何とか話題を変えようとしばらく口ごもってから、はっとした。

「ま、まさか!アルテミアが飛んでいったってことは!赤星も!」

と思ってから、ティフィンは無理矢理笑って見せた。

「アハハハ!そ、そんな決めつけはよくないな!」

「赤星浩一なら、アルテミアと一緒に旅立ったけど」

都合がいい方に話を持っていこうとしたティフィンは、カレンの言葉に地面まで落下して、両手両足をつけると、本気で落ち込んだ。