「ジャスティン・ゲイ…」

その名を聞いた真由と理沙以外の人間は、唾を飲み込んだ。

「ジャスティン・ゲイ…」

九鬼は何とか力を込め、上半身を上げると、前に立つジャスティンの背中を見つめた。

頭の中に、カレンの言葉がよみがえった。

「人類最強の戦士…」

「エル君」

ジャスティンは、小脇に抱えていた布に包まれているものを、九鬼のそばにしゃがんだエルに投げた。

「少し預かってくれたまえ」

と言うと、ゆっくりと真由に向かって歩き出した。

「に、人間…人間、人間!」

真由の瞳が赤く光った。気合いのようなものが飛んできて、ジャスティンをふっ飛ばそうとした。しかし、ジャスティンは軽く肩を後ろに反らすだけで、攻撃をいなした。

「な!な!な!な!」

次々に攻撃を放つが、ジャスティンの歩きを止められない。

ついに、目の前まで来たジャスティンと、真由の目が合う。

「死ね!」

真由は、手刀を突きだした。

ジャスティンはその動きに合わす様に、軽く拳を突きだした。

カウンターの形になり、拳が真由のボディに決まった。

しかし、硬化している真由の皮膚は、拳の衝撃を通さないはずだった。

「フン」

ジャスティンは当たった拳を握り締めると、震わすような拳撃を加えた。

波紋が、真由の皮膚に伝わり、衝撃が内蔵を震わした。

「な!」

内側から感じるダメージに絶句しながら、真由は離れた。

「き、貴様…」

真由は無意識に、ジャスティンの拳が届くであろう範囲から距離を取った。そして、悠然と立つジャスティンを睨んだ。

「何者だ!」

その叫びに、ジャスティンは軽く両肩をすくめ、

「只の人間さ」

一言だけ言った。

「うそつけ!只の人間に、こんな攻撃ができるか!」

キレる真由の様子に、ジャスティンは頷いた。

「そうか。そうだったな」

ジャスティンの脳裏に、若き頃の記憶がよみがえった。

「世間を知らない子供に、人間のすべてがわかるはずがない」

「な、何!?」

「ただ…人間を憎むだけの小娘に、何がわかる」