しかし、そこまでだった。

「雑魚どもが!」

真由は口から流れる血を拭うことなく、九鬼を睨んだ。すると、蹴りが当たっている部分から皮膚が変色し、硬化していく。

「真弓!逃げて!」

その変化に気付いた理沙が、後方に飛びながら叫んだ。

「!」

九鬼も身の危険を察知して、真由から離れようとしたが、できなかった。

足首を掴まれた九鬼は、腕の力だけで振り回され、数十メートル離れた林まで投げられた。

木々を倒しながら、森の中に消えていく九鬼。

「真弓!」

投げられた森に向かおうとした理沙は、前をふさぐように移動してきた真由を見て、動けなくなった。

硬化した皮膚が、鎧の役目をしており、弱点をカバーしているのがわかったからだ。

(これで、勝機はなくなったか…)

理沙の額に、冷や汗が流れた。

「まずは…お前から、殺してやろう。月の女神よ」

ゆっくりと余裕を持って、近付いてくる真由に、理沙は逃げることもできなかった。

「高木さん!」

その時、西部のジャングルの中から輝達が姿を見せた。

輝は真由の姿を見て、思わず息を飲んだ。

「何だ…。あの禍々しい姿は」

輝の後ろにいた打田は、真由から底知れね恐怖を感じ取り、ジャングルを出た瞬間、動けなくなっていた。

「や、やっぱり…君は…」

輝は恐怖を感じながらも、なぜか…一歩前に出た。

頬からの切り傷から、血を流しながら、真由は視線を輝に変えた。

「あなたこそ…残念ね。結局、人間のままだなんて」

フッと笑った真由の表情に、輝は眉を寄せた。

(やはり…泣いているように見える。その仮面の裏に)

見つめ合う2人。

その数秒の隙に、攻撃を仕掛けたものがいた。

十六である。

「隙あり!」

真由の頭上から襲いかかる十六。

しかし、真由は笑うだけだった。

そして、指先に小さな空気の渦をつくると、顔を上げて十六を睨んだ。

「下らん」