「うわあああ!」

真由は、絶叫した。




「くそ!」

合宿所の食堂の奥にある扉を開き、正規ルートから結界内に飛び込んだ絵里香は、誰もいない風景に思わず、足を止めた。

森と結界の間は地面が削れ、草花が生えていない砂地になっていた。

忍者達の死体は塵になり、どこかに飛び散っていた。

何もないと思っていた砂地の上に、真由だけが立っていた。

「た、高木さん…?ぶ、無事だったのね!」

慌てて駆け寄ろうとした絵里香の目の前で、真由は再び絶叫した。

胸から、鮮血が噴き出したのだ。

「高木さん!」

一瞬驚き、足を止めてしまった絵里香は拳を握り締めると、再び駆け出そうした。

「ぎゃあああ!」

しかし、真由は悲鳴を上げながら、絵里香に背を向けると、森の中に逃げていった。

「高木さん!」

手を伸ばす絵里香。その位置から少し離れた場所に、結界を越えた司令官が姿を見せ、絶句した。

「な、何があったのだ?」

静まり返った結界内は、普段の夜と変わらなかった。炎も消えており、闇だけがそこにあった。

「に、二百五十もの…我が部隊はどこに行ったのだ!」

目の前の静寂が信じられない司令官は、頭を抱えた。

「…」

絵里香は、忍者達を無視して、真由が消えた方を見た。

追いかけるべきかもしれないが、闇の深さと…二百五十人の忍者がいなくなった場所に、真由が1人いた事実を目にして、疑念が確信に変わった為に、不用意に追いかけるのをやめた。

(やはり…彼女か)

夜が明けるまで一旦、合宿所に戻ることにした絵里香と違い…残った五十人の忍者は、森に進むことを決めた。

十六に装備されているのと同じ暗視ゴーグルをかけると、そのまま森の中に突入した。


「やめた方がいいわよ」

一応、絵里香は止めたが、

「いらぬお世話だ」

司令官は、忠告をきかなかった。