美亜は突然、目の前に現れた乙女ケースを見て、泣き出した。

「し〜知りません」

少し泣きながら見つめた後、 慌てて顔をそらすと、

「ただ…危ないものだとは知っています…」

涙を流しながらも、美亜は答えた。

「人も魔物も傷つける…恐ろしいものだと」

「あ、あなたは!」

九鬼は声を荒げてしまった。

美亜の答えが、あまりにもおかしいからだ。

「ごめんなさあい!」

謝ってから、え〜んと大声を上げて泣き出す美亜に、九鬼は困ってしまった。

「ごめんなさい」

九鬼も謝ってしまった。

泣き続ける美亜に困り果てながらも、九鬼は最後の質問をした。

「この前…あたしから…」

「あたし…初めて見ました。だけど、涙が止まらないんです!あたしが、悪いんです!」

「ああ…」

九鬼は頭を抱えた。

どうやら、乙女ケースを奪った記憶はないらしい。

しかし、あたしに対して何か悪いことをしたという思いは残っているらしい。

九鬼は乙女ケースを、スカートのポケットに押し込むと、笑顔を美亜に向けた。

「ご、ごめんね。変なことをきいて〜」

泣き続ける美亜に、九鬼はたじろぎながらも、

「もうきかないから、泣き止んでね」

美亜をあやした。

どうも、九鬼にとって苦手な相手らしい。

「グスッ」

美亜は頷くと、何とか泣くのを止めた。

九鬼は胸を撫で下ろすと、美亜に改めて頭を下げた。

「さっきは、ありがとう。手当てしてくれて。ハンカチは洗って返すから」

自分の血がついた美亜のハンカチを受け取ろうとしたが、美亜はハンカチを握りしめて、首を横に振った。

「大丈夫です!九鬼様の傷口を拭っただけですから」

頑として渡さない美亜に、あまりしつこくするのもなんだし…九鬼は諦めた。

「本当にありがとう」

最後に頭を下げると、九鬼は美亜に背を向けて歩き出した。

そんな九鬼の後ろ姿を見送りながら、美亜は…九鬼の血がついた部分を舌で、少し舐めた。

「闇の味…」

そして、にやりと笑った。