「こんな場所があったんですね」

岬に隠されていた休憩所内で、緑は感嘆の声を上げた。

さやかは、革袋から飲み物を取り出すと、全員に配りながら、

「休憩所と言っているが…本来そう使うべき場所は、島の至るところにあるよ。但し、木の上だったりするし…別に結界も張られていないから、普通に襲撃されることが多い。だから、交代で見張りをつけたりして気を抜けない…。はい」

最後に浩也に水を渡した。

「あ、ありがとうございます」

浩也は水を受けとると、頭を下げた。その様子を、真横で心配そうにカレンが見守っていた。

「じゃあ〜ここは、何なんですか?」

緑は、正方形の休憩所を見回した。

「さあな〜」

さやかも休憩所内を見回すと、

「でも、ここを発見した時…使われた形跡がなかったんだ。どうして、こういう空間を作ったのは謎だな」

近くの壁にもたれた。

「…で、どうしますか?これから」

緑はいきなり、会話を変えた。

「そうだな」

さやかは首を曲げると、後頭部を壁に付け、少し考え込んでいるフリをした。

目は、部屋の奥で乙女ケースを握り締める九鬼を映していた。

(戦力的には、ベストだな)

さやかの脳裏に、出発前の絵里香と交わした会話がよみがえる。

体育館の裏に呼び出されたさやかは、絵里香からある任務を頼まれていた。

(でもな…)

さやかは、躊躇っていた。

絵里香が告げた内容は、衝撃的だった。

(お前にしか頼めない)

絵里香はそう言った後、深々と頭を下げた。

(だけどな…)

さやかは、承諾はしなかった。しかし、島を売却する動きがあると知らされ…断ることもできなかった。

(確かに…それは、高坂には言えないな)

さやかはため息をつくと、顎を下げて、視線を緑に合わせた。

そして、おもむろに話し出した。