「!」

突然、十六が走りだした。

「え!」

驚く輝達を背にして、一気に湖の周囲をおおう茂みに、突進した。

「誰だ!」

二本の腕を伸ばし、両手に持った日本刀の刃を水平にし、回転した。

左回りに回転する為に、右手の刀は刃を前に向け、左手は刃を後ろに向けた。

駒のように回転する刃が、茂みを切り裂いた。

一瞬で、枝や葉が舞い、視界が開けたが、そこには誰もいなかった。

「何!?」

周囲を確認した十六に、打田が叫んだ。

「上!」

「な!」

見上げようとした時、頭上から、幾多が落ちてきた。

「甘いな」

股を開き、十六の頭を両手で掴むと、重力で押さえ付けた。さらに、開いている足を前に突きだすとそのまま足を後ろに曲げ、十六の脇にさし込み、絡めた。

そして、ブリッジの要領で背中を反らし、頭から落ちるようにしながらも、両手で十六の両足の太股を掴み、反転した。

「ぐわあっ!」

頭から回転して、地面に激突した十六から、素早く離れると、幾多は…唖然としている輝のもとに近付いた。

「確か…君は、情報倶楽部のメンバーだったね」

にこっと微笑む幾多に、輝は本能的に構えた。

「はい」

いつもなら後ずさってしまう輝の心が、逃げてはいけないと告げていた。

そんな輝に微笑むと、幾多はあくまでも明るく言った。

「真に伝えてくれ。君の大切なものが何かわかったとね。それに、残念ながら、ここで会うことはできなくなったと。いずれ…何処かで…じゃないな」

はははと幾多は、笑うと、

「学校で会おうとね」

そのまま歩き出した。

「…」

輝は、何も答えない。真っていうのが、高坂の名前であるとすぐに気づかなかったのもあるが、会話をしてはいけないような気がしていた。

「あっ!それとだ。僕なんかと違い…本物の人殺しがいるから、注意してねと言っておいてくれ」

幾多はにこっと輝に笑いかけた後、一番近くの茂みの中に消えていた。