ほぼ同時刻。

島に上陸していた幾多流は、寒さと退屈の為に何度も生欠伸をしていた。

極楽島のスタート地点とも言える島の入り口にある建物は、思った程錆びれていなかった。

中に入ると、さらに驚くことに、とても綺麗だった。

ワックス掛けがされた廊下。周囲には、埃はなかった。

幾多が玄関の壁を、指でチェックしていると奥から1人の老婆が出てきた。

「大月学園の方ですかね。お早いお着きで」

玄関の板の間で、出迎えの土下座をする老婆を見て、幾多は目を細めた。

(こ、こいつ…人間ではないのか?)

生気を感じない老婆。見た目は、人間なのだが…血が通っているように思えないのだ。

身長150センチくらいしかない老婆は、顔を上げると、幾多に訊いた。

「他の方々は?」

キョロキョロと幾多の後ろを見る老婆に、肩をすくめて見せてからこたえた。

「僕だけ先に来たのですよ」

「へぇ〜!」

幾多の言葉に、後頭部が後ろにつくんじゃないかと思う程、身を反らした老婆に、幾多はにこにこと笑顔を向けると、

「数時間後に、みんな着くと思いますので…」

玄関を上がることなく、後ろに下がった。

「それまで、周囲を見てみます」

「え!あ、ああ」

老婆は、玄関から出ていく幾多に手を伸ばした。

しかし、幾多はそれを無視して、プレハブの建物を壁沿いに歩き、真後ろに向かうことにした。

「申し訳ございませんが…こちらから先は行くことができません」

正面から角を曲がった瞬間、幾多は絶句した。突然前に、先程の老婆が現れたからだ。

驚いた理由は、老婆の速さではない。

前に回れるはずがなかったからだ。

建物の裏口は、完全に結界と一体化していた。

側面には、窓もない。つまり、老婆は幾多を後ろから追い越す以外に、前にいるはずがなかったのだ。

勿論、追い越されてはいない。

幾多は笑うと、老婆に直接訊いた。

「あなたは、何者ですか?」