「真弓」

空中から、九鬼のそばに降り立ったカレンは、ピュアハートをペンダントの中に戻すと、ゆっくりと近づいてきた。

「今の力は?」

乙女ブラックの時とは比べ物にならない程の力を感じたカレンは、九鬼に訊いた。

「…月影としての最強の力。だけど、まだ自分では発動できないの」

九鬼は、黒い眼鏡ケースを手に取り、じっと見つめていた。

「そうか…」

それ以上は、カレンも詮索しない。

先頭のバスが、九鬼達を避けるように通り過ぎると、山側に停車した。

その動きを見て、後方のバスも続いて止まった。

先頭のバスから、緑と梨々香が飛び降りた。

「バスのダメージを調べるぞ!」

先頭のバスから、前田が降りて来た。

後方からは、高坂が。

「周囲に、気を配れ!全員降りなくていい!今田先生!如月!調べてくれ!あと、怪我した者は、上野先生に診てもらえ!それと、高坂!勝手に降りるな!」

「フッ」

前田の注意を笑みで返すと、高坂は九鬼達に歩み寄った。

「お疲れ様」

高坂は2人に微笑むと、ガードレールの向こうの景色に目をやった。

学園から、数時間離れただけで、まったくの別世界に変わっていた。

数多くの山が密集し、その中を道路は進んでいた。

あと山を2つ越えれば、関所がある。そして、再び人間のテリトリーを突っ切ると、海へとたどり着く。それから、海岸線に沿って走れば、極楽島への船着き場に行き着く。

学園から、何もなければ…六時間〜七時間の間に到着する。

「今のロスを取り返すぞ!みんな、乗れ!」

どうやら、バスに大したダメージはなかったようだ。

高坂は、山々の緑を見つめながら、ぽつりと呟くように言った。

「本当は…俺達人間の方が、招かれざる存在なのかもしれないな」

「…」

その言葉に、九鬼とカレンは無言になる。

「せめて…一刻も早く、ここから立ち去ることが、一番いいことかもしれないな」

高坂は、生い茂る緑に軽く頭を下げると、バスに向かって歩き出した。

その後ろを、一度山々の様子を見てから、2人が続いた。