「そ、それは…」

口ごもるカレンを見て、高坂は目をつぶった。そして、すぐに目を開けると、

「変な詮索はやめよう。プライバシーの問題になる。それよりも、君には訊きたいことがある」

高坂は、カレンの目を見つめ、

「君を傷つけたのは…天空の女神なのか?だとしたら、彼女は…変装して、この学園に潜り込んでいるのか?そうだとすれば…一体、誰が」

「申し訳ないですか…誰かに変装しているとかは知らないです」

カレンは、頭を下げた。

「そうですか…」

高坂はさらに、追い討ちをかけることなく、すぐに納得したように頭を下げた。

「ごめんなさい…。力になれなくて…」

カレンはもっと深く頭を下げてから、一呼吸置いて、

「お世話になりました。失礼します」

歩き出した。もうよろけることもなく、背筋を伸ばし、部室の出口へと向かった。

途中、緑と目があったが、互いに挨拶することはなかった。

「じゃあ…あたしも」

九鬼も、情報倶楽部のみんなに頭を下げると、カレンの後を追った。

傷が癒えたとはいえ、まだまだ心配であった。



2人が去ってからしばらく間を置いて、高坂は口を開いた。

「すべては…流れていく。行き着くべきところへ。しかし、それが…我々にとって、最悪場所だとしたら…ただ流れるのではなく、例え…いずれ、削り去ろうとも河の中の石の如く、そこに留まり、流れを変えて見せる」

そして、部室の扉に目をやり、

「我々人間は、流れを逆行する程の力はないからな」

フッと笑った。

「だったら、どうして…人間はいるのでしょうね?」

素朴な疑問を、輝は口にした。

「それは、わからない。しかし、なぜいるのかには意味はない。我々はすでに、ここにいるのだから…」

高坂は、部室の内の輝達を見回し、

「我々が気にすべきなのは、これからどうするのか。どうすべきかだ。大切なのは、未来だ。すべての人間に、未来があるように…。それこそが、為すべきこと」

ゆっくりと目をつぶった。