「ククク…」

人々の悲鳴の中で、まったく違う声が耳に飛び込んできた。

まるで、楽しくてしょうがないとでも言うような含み笑い。

「気を抜くな!」

緑は、木刀を握り締めた。

「え」

すぐには、状況が理解できなかった輝も、両手が鋭い鎌でできた三匹の魔物を見た瞬間、自然に体が身構えた。

「魔物?」

だけど、まだ頭は現実を理解できなかった。

「襲撃だと!?」

高坂は、抱き締めていた男の子を解放した。

「聖也ちゃん!」

母親が駆け寄ってきて、男の子を抱き上げると、ありがとうございますと高坂に頭を下げ、走り去っていった。

「三匹…いや、まだいるか!」

高坂はショッピングモールの奥に、顔を向けた。

そちらの方から、お客が全力で逃げてくる。

「ぎえええ!」

河馬に似た…体調20メートルはある魔物が、二匹突進してくる。

通路に並ぶ左右のテナント内を蹴散らし、壁を破壊しながら、こちらに向かってくる。

逃げる途中で、足が絡まりこけた人間は、容赦なく踏み潰されたり、口で噛みきられた。

「くそ!」

逃げる人々とは逆に、魔物に向かいながら、梨々香は叫んだ。

「ステラ!」

「はい!」

ステラは、梨々香が持つ銃に手をかざした。

「魔力装填!」

梨々香は、銃口を河馬に似た魔物の額に向ける。

「喰らえ!」

そして、引き金を引いた。

「ククク!」

3匹の鎌の腕をした魔物は、じりじりと緑達に向かってくる。

「おのれ!」

高坂が、緑の前に飛び込み、

「高坂パンチ!」
「邪魔です」

緑は、襲いかかろうとする高坂の襟の後ろを掴むと、無理矢理後方に向かって引いた。

「部長は、綾瀬さん達を避難させて下さい!足手まといです」

きっぱりと言われて、ションとなる高坂に、テーブルに座っていた理沙が告げた。

「心配ありません。もうすぐ…彼女が来ます」

「え?」

「月の戦士が」

理沙は、にこっと笑顔をつくり、高坂達に微笑んだ。