「まったく…人使いが、荒い!」

毒づきながら、西校舎の階段を下りる輝。

「ごちゃごちゃ言いやがって!人を負け犬だと!それは、犬上一族への一番の冒涜だぞ!くそ!」

頭をかきむしり、苛立ちを露にする。

「それに!人に死ねだと!てめえが、死ね!絶対死ね!ああ〜!殺してやりたい!」

誰でもいない空間だと、強気になる輝。


――クスクス…。

下から笑い声が聞こえてきた。

「!」

思わず、階段の途中で足を止めた。

視線を下に向けると、1人の少女が笑っていた。

輝は、目で周りを確認した。自分と少女以外誰もいない。

明らかに…少女の笑いは、自分に対してだ。

さっきの愚痴が聞かれたことに気づくと、恥ずかしさから顔が真っ赤になった。

少女は、笑みを止めた。階段の途中で、動かなくなった輝に気付いたからだ。

「あっ!ごめんなさい」

少女は、謝った。

「あっ!い、いや…」

謝られた意味がわからなかったが、輝はゆっくりと階段を下りていった。

「あまりにも、あなたが怒っているから」

「ああ…まあ…」

階段を下りきった輝の横で、少女は微笑んだ。

「その人が、よっぽど嫌い何ですね。殺してやりたいだなんて」

「え、まあ…酷いですから」

視線をそらし、呟くように言う輝を見て、少女はまたクスッと笑った。

その笑いが気になって、輝はちらっと少女を見た。

日本地区にはいない彫りの深い顔立ちなのに、どこかあどけなさが残っていた。

「そうですよね」

少女は笑みを止め、輝を見つめた。

慌てて、目を動かす輝に微笑みながら、

「あたしも人間が嫌いなんです。だって…酷い生き物だもの」

「え」

輝は、今の少女の言葉が引っかかり眉を寄せた。あどけない少女には、違和感のある言葉。 だから、恥ずかしがることなく少女の方を見た。

そんな輝の心を読んだかのように、少女と目が合った。

少女は口許に、微笑を浮かべながら、

「先日…姉が自殺したんです」

衝撃的な事実を口にした。