恐怖…これほどの恐怖を、今まで感じたことがなかった。

男にも…そして、魔物にも感じたことのない恐怖。

気が強く、実力もあった為に、そんな感情とは無縁だった。

初めてのあり得ない恐怖。その前では、自我が崩壊する。

ただ怯え…泣きわめき…今まで築いてきた性格が、崩壊する寸前…。

美亜は、眼鏡をかけた。

「は、は、は、は、は」

呼吸が安定しない。心臓が破裂しそうだ。

はいていた短いスカートが捲れても、気にする心がない。

「先生…」

美亜は一歩前に出ると、前田を見下ろした。

「これは…遊びじゃないんですよね」

にやりと笑うと、

「どうします?」

前田に訊いた。

「あ、ああ」

前田は、声にならない声を発した。

それを見て、美亜は軽くため息をつくと、

「でしたら、質問を変えましょうか?」

鋭い目で、前田の目を射ぬき、

「あたしも参加してよろしいですか?」

最後の質問をした。

「…」

前田は無言で、頷いた。

「ありがとうございます」

美亜は頭を下げると、満面の笑顔を作った。

そして、前田を見下ろしながら…ゆっくりと背を向けて行く。

「では…失礼します」

そのまま美亜がいなくなっても、前田はしばらく立ち上がることができなかった。

「…」

声も出ない。

そんな前田の耳に、次の授業の始まりを告げるチャイムの音が空しく飛び込んできた。