「…ゲッ」

小さく呟くように言ったつもりだったが…その声は相手に伝わった。

「何だ?」

電話向こうから、明らかに不機嫌な声が聞こえて来た。

「何か、言いたいことがあるのか?」

「べ、べ、別に、な、な、何も…ございません」

声が震える輝に、

「さっさとやれ!このうすら馬鹿だ!死ぬ!」

という暴言を吐くと、通信が切れた。

かけてきたのは、緑だった。

さらなる精神的ショックを受け、その場で崩れ落ちる輝。

「こ、これって…部活だよな」

人気のない廊下に両手をつけて落ち込み輝を、慰めるものは誰もいなかった。





「何だ?話って」

西館の裏に呼び出された前田は、邪魔くさそうに頭をかいた。

「先生…」

その前に立つのは、分厚いレンズの眼鏡をかけている阿藤美亜だった。

美亜は、背が高いくせにハイヒールをはいている前田を見上げ、

「今度…勇者になる為の修練の島というところで、合宿をなさるんですよね」

「ああ〜まあ〜そうだな」

「それに…あたしも参加した」
「駄目に決まってるだろが!」

美亜の言葉が言い終わる前に、前田の口調が変わった。

「合宿を舐めるな!今回は、選ばれた者だけでいく!島には、強力な魔物もいる!お前のような者が行っては、命にかかわるだけでなく!参加した生徒にも、危害が及ぶかもしれん!遊びじゃないんだ!」

叱るように言う前田の言葉が終わるのを、美亜は無言で待っていた。

「フッ…」

口許を歪めた美亜。その瞬間、雰囲気が変わった。

「わかったか!お前のような…」

突然、前田は話すことができなくなった。

唇が小刻みに震えるだした。いや、唇だけではない。全身が震えていた。

「え…」

無意識に後ずさった前田は、足がもつれて…尻餅をついた。

「先生…」

美亜は眼鏡を外すと、微笑んだ。

「ヒイ」

前田は、生まれて初めての声を上げた。