「ここか…」

刹那は、北館一階中央にある生徒会室の前に立っていた。

自分で言い出したことだが、素直に来てしまったことに、少しだけ後悔していた。しかし、嫌ではなかった。

九鬼の顔を思い出すと、今は…なぜか心が温かくなったからだ。

(どうしてだ?彼女も闇のはず)

生徒会室のドアノブさえ、輝いているように思えた。


刹那は、ノブを握るのを躊躇った。

なぜなら…握った瞬間、自分の手が焼けるような気がしたからだ。

(私は…闇)

逃げようとする自分自身に、渇を入れるように、目を見開くと、ノブを掴み…回した。


(!?)

意外と簡単に開いたドアの向こうに、九鬼がいた。



「待ってわ。閨さん」

緊張していたのか…ドアを開けただけでよろめく刹那に、九鬼は微笑んだ。


机と椅子…本棚しかないシンプルで、質素な生徒会室は、昔と変わらない。なのにいるだけで、特別な空間に感じられた。

(この女がいるだけで…)


「大丈夫?」

よろけた自分に駆け寄った九鬼を、刹那は思わず見つめてしまった。


「だ、大丈夫!」

そのことに慌てた刹那は、すぐに体勢を立て直し、九鬼から離れた。


真っ赤になっている刹那を見て、九鬼は微笑んだ。

「閨さんって…面白い方だったんですね」

「え?」

刹那には、意味がわからなかったが、楽しそうに笑う九鬼を見ていると、いつのまにか自分も笑顔になっていた。


「!」

そんな自分に気づいた刹那は、すぐに表情を引き締めた。

刹那の変化に気付いた九鬼も、笑うことを止めった。

ほんの数秒だけ…見つめ合う2人。



「フッ…」

微かに、刹那は唇を歪めた。

「?」

九鬼は、その動きに気付いたが、表情には出さなかった。

刹那は、九鬼から視線を外すと、生徒会室を見回し、おもむろに話し出した。

「今回…ここを訪ねたのには、訳があるの」

「訳?」

「そうよ」

刹那は再び九鬼を見つめ、

「あなたに、頼みがあるの」

今度ははっきりと微笑みを向けた。