(あの頃の俺が…もっと強かったら…。あの時、足がすくまなかったら)

ティアナとライの出会いは、違ったものになったかもしれない。

(しかし…)

後悔からは何も生まれない。

(先輩は…一生懸命やった。己の限界をこえて)

ジャスティンは前を見つめた。

(だったら…俺も同じく、限界をこえよう)

魔界から出て、日本へ向かうことを決意したジャスティンは、自らの手を見つめ、ぎゅっと握り締めた。

その時、ジャスティンの前に上級魔物が十体、空から降り立った。

「ジャスティン・ゲイ!今こそ、貴様の命を頂くぞ」

一方前に出た白鷺に似た魔物の言葉に、ジャスティンはフッと笑った。

「やる気はないな」

少し惚けて言うジャスティンに、魔物達はキレた。

「やつは強い!一斉にかかるぞ!」

十体の魔物が、ジャスティンを囲んだ。

(先輩…)

ジャスティンはそんな状況でありながら、目を瞑った。

「さすがの貴様も、観念したか!」

白鷺に似た魔物が、笑った。

ジャスティンは口許に笑みを浮かべながら、

(先輩…。やっと、準備が整いましたよ)

ゆっくりと目を開けた。

「かかれ!」

四方八方…さらに、二体が飛び上がり、頭上の逃げ道をふさいだ。

ジャスティンは、それでも…狼狽えることなく、微かに唇を振るわせた。

「…」

呟いた言葉は、魔物達の迫る音で誰も聞き取ることはできなかった。

そして、確認することも…。

「うぎゃああ!」

魔物達は、ジャスティンの姿を視界から見失った。

しかし、どこにいったか確認する暇もなく、魔物達は痛みとともに絶命した。

「な、何だ…今のは」

白鷺に似た魔物は気付いた時には、首が体から離れ…地面に落ちていた。

掠れていく視界が見たものは、遥か遠くを歩いていくジャスティンの後ろ姿だった。

天空のエトランゼ零章 ホワイトナイツ編。

孤独の刃

完。