「先輩!急がないと、中には」

ジャスティンは抵抗しょうとしたが、ティアナの信じられない力から逃れることはできなかった。

「わかっている」

小声でそう言うと、ティアナはジャスティンを引っ張って、数メートル移動した。

その様子を見つめていた警備兵が一歩下がると、壁の模様をした結界にできた入口がなくなった。


「先輩!」

ジャスティンは、やっと力が弱まったティアナの腕を払い除けた。

「わかっているわ。だけどね。正当法で無理なら…他にも方法が」

と、ティアナがいいかけた時、頭上から何かが落ちてきた。

「危ない!」

感覚で危険に気付いたティアナがジャスティンに飛び付き、抱き締めると、地に伏せた。

「先輩!?」

突然の行動に、訳がわからないジャスティンのすぐそばに、無数の羽のついた物体が落ちてきた。

「え」

顔を上げると、回転する2つ物体が目の前に旋回しており、落ちてきたものから2人を守っていた。

ティアナが立ち上がると、その物体はトンファーに変わった。

「こ、これは!?」

ジャスティンも立ち上がった。

空から落ちてきたのは、無数の式神だった。

「式神が、どうして」

ジャスティンが周りを見回している間に、式神達はただの呪文を書いた紙に戻った。

「どうやら…」

ティアナは、十字軍本部の方に顔を向け…目を細めた。

「始まったようね」


「え!」

ジャスティンは目を疑った。


半径数キロはある十字軍本部を囲む…結界が消えていたのだ。

剥き出しになった本部の建物を見て、ティアナはトンファーを持つ手に力を込めた。


マジックショック。

後にそう言われる現象。

魔王ライにより、人間が完全に魔力を使えなくなった瞬間だった。

世界中で、人々を守る結界が消えたのだ。

その日…多くの人が死んだ。

なす術もなく…。