「本当に…やるつもりか?」

またため息をつくと、伊達眼鏡をかけた男はランを見た。

「ああ…。もうプロジェクトは水面下で動いている。ティアナ・アートウッドという天才であり…勇者、そして救世主である彼女に嘱された者達でな。彼女は、魔王のやろうとしていることの先を読んでいた。カードシステムは、科学を縛りつける。さらに、人間に努力を強いる…夢のシステムだ。これで、万人が平等になる」

ランは、自らを確かめるように、力強く頷いた。

当初、カードシステムは倒した魔物から、魔力を奪い…平等に人々に分けられるはずだった。

それが、間近に迫ったマジックショック後の人々の生活を保証するものだった。

しかし、人間に平等はあり得ない。

カードシステムがまさしく…クレジットカードのような感じになった時、平等になるはずがなかった。

ポイントとして加算される魔力が、生活用品の動力に使われる燃料の変わりもするようになった時、貧富の差は生まれた。

確かに、直接魔物を倒せば…自分個人のポイントを得ることもできた。

しかし、今度は…力の差という新たな格差を生んだ。

誰が、苦労して得たポイントを他人に配るか。


しかし、開発段階の時は、魔力が使えなくなるという人々の不安を最小限に抑える為につくられた為、貧富の差ができることなど考慮されなかった。

すべてが急務だったのだ。

まずは、すべての人を救う。

ティアナの考えは、それだった。

その後に、人間同士で繰り広げられるポイントの奪い合いが起こるとしても、世界が安定してからしかない。

ティアナ・アートウッドは、人の善意を信じる人間だった。

そして、人の弱さも知っていた。

だからこそ、人の為に生きようとしていた。

その後に、自らの身に悲劇が訪れようと…自分の信じる心は変わらない。

だからこそ、戦い続けていけたのだ。

他が為に…。