「どう思う?」

初期のスーパーコンピューターに似た巨大な電子計算機の前にいた男が、振り返った。彫りの浅い典型的な東洋顔に特長をつける為にかけた…伊達眼鏡だけが目立っていた。

「このプランは?」

魔王によって、魔法を使うことを制限されていった人々は、皮肉にも…禁断の力と云われた科学に手を出すこととなった。

ある程度の土壌があったとはいえ、核の開発までこぎつけた早さは異常であった。

しかしも、あのアインシュタインさえも撃つまでは後悔しなかった…核というものの恐怖を、この世界の人間は知らない。

「都合がいい力だと思うよ。人間にとってね」

伊達眼鏡の男の後ろで、コーヒー片手にくつろいでいた男は、電子計算機の横にあるモニターを睨んでいた。

「魔法は、使う人間に対価を求め、危険を伴っていた。その危険も己に降り掛かった。なのに、科学ってやつは、自然も傷付けている。人間に都合良くね。しかし…人は自然の中にいる。自然を壊せば…人もいずれ壊れるよ」

そこまで言ってから、コーヒーを一口啜った。まるで、女のような綺麗な顔が、熱さで少し歪んだ。

「そういうことをきいてるんじゃないよ。ラン…。それに、自然ってやつは、人間に左右される程小さな存在とは思えないけど」

今度は、伊達眼鏡の男の言葉に顔をしかめ、

「そんな人間の考えが、悲劇を生むんだ。考えてもみろ。人間が風邪をひくのだって、目に見えない細菌のせいだぞ」

「ラン!お前の言い方だったら、人間が自然を汚すバイ菌のようじゃないか!」

少し声を荒げた伊達眼鏡の男に、肩をすくめて見せ、

「それは、そうだろ?風邪を拗らせたら、死ぬ時だってあるぜ」

マグカップに入ったコーヒーを一気に飲み干すと、

「少なくとも…科学に手をつけた時点で、人間は世界を汚すよ。それは…この世界で科学が発展しなかった理由の一つだ。魔王は、人間に科学を発展させなかった」

モニターに映る核ミサイルを睨み付けた。

「ラン…」

「それなのに…。魔王は、今になって科学を使わそうとしている…。なぜだ?」