(王の御心とともに…)

サラは、目を瞑った。

「あ、ありがとうございます」

アスカは、礼を述べた。

視力は戻らないが、痛みはとれた。

「礼には及ばん。人神よ」

サラは、アスカに背を向けた。そして、ゆっくりと歩き出した。

「サ、サラ!?」

と同時に、ギラが玉座の間に入ってきた。ライがいないことを確かめてから、治療としているサラの姿を見て驚いていた。

どんなに戦いで傷付いても、己の未熟さ故として、決して傷を治さないサラが、初めて治療能力を使っていたのだ。

といっても、サラを傷付けるのは相当な戦力が必要だが。

十字軍約5万の兵隊と1人で戦っても、少し血を流した程度だった。

「フン」

サラは鼻を鳴らすと、驚いているギラの横を通り過ぎた。

「お、おい!サラ!勝手に、王の間に入って…人間の傷を治してよかったのか?」

慌ててサラの後を追うギラ。

「フン」

サラはまた鼻を鳴らすと、

「炎の魔神が、目覚めたことを報告に来ただけだ。傷を治したのは…いつまでも、血を流していれば、王のお心が乱れる」

「サラ!」

それでも、何か言おうとするギラに、サラは足を止めると、振り返り…右手を突きだした。

「うるさい」

突きだした右手が、スパークする。

「サ、サラ…」

自分を睨み付けるサラの苛立ちを感じて、ギラは後ずさった。

「フン!」

ギラが何も言わないのを確かめると、サラは右手を握り締めた。そして、前を向くと…つかつかと歩き出した。

「…」

しばらく無言で見送った後、ギラは頭をかいた。

「何を苛立っておるんだか…人間の女でもあるまいし…」

同じ時期に生まれたサラとギラは、ライが創った最初の魔神であった。 それぞれが、自分の片腕になるように。

その為、姉弟のような関係になっていた。

「……しばらく、距離を置くか」

またしつこく迫ったら、今度こそ撃たれる。

それがわかっていたギラは、サラが向かった方とは逆の方向へ歩き出した。