「服などどうでもよい」

吐き捨てるように言ったサラに、男はまた肩をすくめて見せた。

「君には、情緒というものがないのかね?この服というものを脱がしたときの人間の恥じらい。さらに言うとだ。服などを着なければ、生活できない人間の弱さを」

「生憎…我等魔神に、恥じらいなどないわ」

ギロリと横目で、男を睨むサラ。

「まったく…君ってやつは…。あるなしではないのだよ」

男はため息をつき、

「弱き人間を、殺すのも飽きてきたからさ。ほんの少しでも、趣向を凝らさないといけないのさ」

「…」

さらは無言で、男を睨み続ける。

「君達…雷風の魔神とは違い。私のような炎の魔神は、触れるだけで、人間は消滅するからねえ〜。つまらないのだよ」

「フン」

サラは男に向かって、鼻を鳴らした後、にやりと笑った。

「やはり…貴様は、下衆だな」

その言葉に、男の雰囲気が変わった。

「今の言葉…。私を愚弄したでよろいしいかな?」

「好きに取れ」

サラの雰囲気も変わった。

一瞬で、臨戦態勢に入った2人。


「やめておけ」

地下室から延びる階段の中段に立ち、2人を見下ろす初老の男が一喝した。

「カイオウ…」

サラは階段を見上げ、水の騎士団長の1人…カイオウに目を細めた。

「騎士団同士の戦いは、ご法度のはず!それに、ここは魔王の城ぞ!争いは、控えよ!」

階段をゆっくりと下りてくるカイオウを見て、男は肩をすくめた。

「別に〜私から仕掛けた訳ではないけどさ」

「不動!」

カイオウは階段を下りきると、サラの前に立つ男を睨み付けた。

「ケッ!」

男の正体は、炎の騎士団長不動。 彼の感情を表すように全身を形成する炎が揺らめいた。

「別に、こんなつまらん女と話してる暇はないんだよ。失礼する」

不動は、地下室の扉を開けると、中に消えた。

彼の苛立ちを表すかのように、扉の取っ手が赤く熱を保っていた。

「フン!」

サラはまた鼻を鳴らすと、カイオウの横を通り過ぎた。