水が先に出された。

前にグラスを置くとき、店員はちらりと、ティアナを見た。

だけど、すぐに横を向くと歩きだし、カウンターの左端にある厨房の入口の中に消えた。

ティアナはグラスを手に取ると、口に運んだ。

湧き水だと思われる水は、のど越しがよかった。

皮肉なことに、魔界に近い方が水が美味い。

一度グラスをカウンターに置いたティアナは、後ろから感じる視線に気付いていた。

ティアナの武器であるチェンジ・ザ・ハートは、常に携帯しなくてもいい為、彼女はいつも丸腰である。

身に付けている白い鎧と、下着くらいしか…荷物といえるものはなかった。

だから、こんな場所で、女1人が丸腰でいることは、違和感しか与えなかった。

気にせずに、ティアナは再びグラスに手を伸ばした。

その時、店の扉が再び開いた。

「あの女は?」

入ってきたのは、本陣横のテントにいた褐色の男だった。 どうやら、ティアナを探しているらしい。

店内にいる客達が、ひそひそ声で話していた。

「やはり…あの女は…」
「間違いない」

そんなやり取りを聞きながら、褐色の男はティアナを探す。 いや、探す程でもなかった。 すぐに見つかったからだ。

後ろ姿でも目立つ…美しきブロンドの髪が、店内の何よりも輝いていた。

褐色の男はにやりと笑うと、カウンター向かって一直線に歩きだした。


「お待たせしました」

ティアナの前に、皿に乗ったパンとハムが出されたのと同時に、男はティアナの横に立ち、カウンターに手を置くと、店員に笑いかけた。

「俺には、酒をくれ!隣の勇者様のおごりでな」

「!?」

ティアナは驚き、横の男を見た。

ティアナ以外誰もいないカウンターで、わざわざ隣についたことも驚いていたのに…さらにおごれとは…。

この男…頭がおかしいんではないかという目を向けるティアナに、褐色の男はにっと歯を見せて笑った。

「いいだろ?あんたのせいで、仕事なくなったんだからよ」