生徒会の仕事が終わり、正門から教室へと向かっていた九鬼は、校舎の入り口の前に立つ女子高生の姿を認め…足を止めた。

「蘭花…」

授業が、始まるまでに時間がない。

殆どの生徒が、教室で席についている状態の中…悠然と腕を組み、九鬼が近づいてくるのを待っていた。

思わず止めてしまった足を、九鬼は蘭花を見つめながら再び動かした。


「おはよう」

平然と朝の挨拶をして、通り過ぎようと九鬼に、

「おはよう」

と蘭花は一応挨拶を返したが、すれ違う寸前まで次の言葉を発しなかった。

九鬼の耳が一番そばに近付いた時、蘭華は前を見つめながら口を開いた。

「闇が…また出たようね」

「!?」

その言葉に驚きながらも、九鬼は1メートル程歩いて…足を止めた。

「そして、また…紛い物の力を使ったようね」

蘭華はゆっくりと体の向きを変え、九鬼の背中を睨んだ。

「言っておくけど…乙女ブラックは、あたし。黒の名を受け継ぐのは、あたし達…黒谷一族なの」

「それは…」

九鬼も振り向き、

「わかっているわ」

黒谷の顔を見た。

その目の強さに、蘭華は唇を噛み締めた。

どんな色であろうと、人々を守る為に戦う。

九鬼の瞳が、そう語っていた。

例え…紛い物であろうとも。


「く!」

蘭華は顔をしかめると、叫んだ。

「あなたにはあったはずよ!特別な力が!」

「そうね…」

蘭花の言葉にはっとした九鬼は、すぐに睫毛をふせた。

「!」

その予想外の悲しげな仕草に、蘭花は思わず息を飲んだ。

「そうだったわ…」

九鬼はそう言った時、授業の始まりを告げるチャイムが、学校中に鳴り響いた。

九鬼は蘭花に頭を下げると、教室に向って歩き出した。

「九鬼!」

蘭花の声にも、もう足を止めることはなかった。