「絵里…」

学生時代も、見せたことのない絵里の表情に 、明菜は何も言えなくなった。

「わたしも続けたら、よかったかな」

視線を町並みに向き、絵里は遠くを見つめた。

「だ、大丈夫だよ。まだできるよ」

明菜は笑顔をつくり、

「そうだよ。絵里もさ…」
「わたし…就職決まったの」

絵里は無理矢理、明菜の言葉を遮った。

「そ、そうなんだ…」

明菜は、それ以上何も言えなくなった。

「ちょっと町から…離れているの。だから、演劇はできない」

「!」

絵里の視線が、明菜に向けられた。その瞳に、突然浮かんだ決意の強さに、明菜は息を飲んだ。

(何!?)

それは、殺気に似ていた。

「ど、どんな仕事なの?」

おかしいと心の中で思いながらも、明菜は何とか…会話を続けようとした。

「あまり言いたくないんだけど…」

テーブルに頬杖をついた絵里の目が、今度は悪戯っぽく探るような色に変わった。

「ど、どこなの?」

あんまり聞きたくなくなったけど、話の流れで…明菜は訊いた。

「原子力発電所」




「え?」

この答えは、演劇部のスターだった絵里からも想像もできないことだった。

「あまり…いいイメージはないでしょ?だから、他の人には、内緒にしててね」

「わ、わかった」

明菜が頷くと、絵里ははにかんだように笑い、

「ところでさ…。話変わるんだけど、いい?」

「う、うん」

明菜はまた、頷いた。

どうもぎこちないなと、自分でも思うけど、なかなか変えれない。

少し落ち着こうと、明菜は紅茶の入ったカップに手に取り、口へと持っていく。

しかし、その中身を…明菜は飲むことができなかった。

絵里の口から出した言葉によって…。


「赤星浩一君って、元気かな?」



「え」

明菜は口の前で、カップを止めた。

「ほらあ〜!同じ高校の…って言うより、あんたの幼なじみでしょ?」