「フン!」

自分を見つめ考え込んでしまった九鬼の隙をついて、加奈子は廊下の窓ガラスに向かって、ジャンプした。

包丁で割れていた為に、簡単に外に着地できた。

「加奈子!」

はっとして、後を追おうとしたが、窓に手をかけた瞬間、空から無数の包丁が降ってきた。

「チッ」

反射的に身をよじった九鬼。

包丁が降り終わった時には、加奈子の姿は消えていた。

「逃がしたか」

地面に突き刺さっている無数の包丁を飛び越えると、窓の外のコンクリートの上に着地した。

眼鏡を外すと、変身を解いた。




「あれが…乙女ソルジャー」

そんな九鬼の様子を、校舎の一番上…金網の上に立っている刹那が見下ろしていた。

「闇を…克服できる力…」

呟くように言った刹那の耳許に、もう1人の刹那の声がした。

「そうよ…。あなたには、手に入らない力よ」


「あたしには…」

そう呟いた時、刹那の瞳から涙が流れた。

「クス」

その涙に気付き、もう1人の刹那が笑った。

「弱い子…。その涙を流せる意味を考えたことがあるのかしら?」

嘲るような言い方に、刹那は顔を引き締めた。

「わかっているわ」

そう言うと、刹那の体は空間に溶けるように…消えた。




「うん?」

一瞬、殺気を感じたような気がして、九鬼は空を見上げた。

いつのまにか…空に月が出ていた。

「夜が…始まったか」

目を凝らすと、遠くの方で魔物らしきものが飛んでいるのが、確認できた。

結城哲也が組織していた防衛軍が崩壊した為に、この地域の安全はなくなりかけていた。

しかし、なぜか…この学園に近寄る魔物は少なかった。

まるで、何かに怯えているかのように。


「…」

九鬼は無言で歩き出した。

魔物のいるところまで。

防衛軍の代わりに、守る為に。


正門に向かって歩く九鬼を、遠くの方から校舎の影に隠れて見送っている者がいた。

阿藤美亜である。