「ほんと…久しぶりよね」

昼下がりの街角。メインストリートから二本離れた道は、人が過ごすのにちょうどよかった。

カフェのオープンテラスに座り、グラスの中の氷をストローで、一度かき混ぜると、少女は微笑んだ。

いや…もう少女とはいえないが、幼い顔があどけなさを引き立てていた。

「元気にしてたの?」

「ええ」

目の前に座る女の微笑みに、沢村明菜は思わず見とれてしまった。

「クスッ」

ストローから手を離すと、また違う笑顔を見せた女の名は、矢崎絵里。

2人は、同じ高校の同じ演劇部に所属していた。

どちらも演者であったが、どっちかというと裏方もやるオールラウンドプレーヤーだった明菜と違い、つねに主役クラスを任されていた絵里は、演劇部のスターでもあった。

だから、卒業しても、演劇関係を続けると思っていたが、まったく何もやっていないらしい。

逆に時間はかかったが、明菜の方が演劇に関わっていることが、不思議だった。

「中山部長とまた一緒にやってるなんて、夢みたいな話よね。うらやましい」

少し睨むように明菜を見た絵里の表情に、動揺してしまった。

「えっ!で、でも…まだ入ったばっかりだし、役もいつ貰えるかわからないし…」

「そりゃ〜あ、そうでしょ」

絵里はもう一度、ストローを回してから、

「演劇は、そんなに甘くない」

ぴしっと言った。

「絵里…」

その口調に、未だに消えていない演劇への愛情を感じ、明菜は嬉しくなった。

2人は見つめ合った後、嬉しさから笑い合った。

絵里の屈託のない笑顔を見ていると、明菜は自然に次の言葉が出かけた。

「絵里…。あんたもよかったら…」



「明菜…」

突然、絵里の口調が変わった。

笑顔が消え、明菜から視線を外すと、グラスの中の溶け始めた氷に目をやった。

「最近よく…あの頃を思い出すの。一番、楽しかった…演劇部にいた頃を」

「絵里…」

いきなり絵里の表情に影ができたことに、明菜は気付いた。

「後悔って…人は、するんだね」

悲しげに、絵里は微笑んだ。