「このような事態の中で、我が…貴殿ら人間の為にできることは、魔王復活を遅らせること!止めることは、できぬ!」

カイオウの鋭い眼光が、ジャスティンを射ぬいた。

さっきのように、流すことができず、ジャスティンの体に衝撃が走った。

しかし、ジャスティンには、それがカイオウの檄のように思えた。

「その間に、アルテミア様のご子息といわれる者の正体を探ってほしい」

カイオウはまた、視線を外した。

「この情報は、我が知っていてはいけないこと。もし知っていることがバレれば…騎士団長同士の争いに発展するであろう。さすれば…貴殿ら人間も巻き込んだ戦いになる」

「…」

ジャスティンは何も言えなかった。

別に話せない訳でない。

カイオウの気持ちが痛い程わかったから、余計な言葉は無用だった。

ただ…カイオウの目を見て、力強く頷くだけだ。

「有無」

カイオウも頷くと、

「頼んだぞ。兄者よ!」

カイオウの姿が消えた。

と同時に、一際大きな波が、岬にぶつかった。

「兄者か…」

ジャスティンとカイオウは、ティアナ・アートウッドの弟子であった。

人間であるティアナに負けたカイオウが、その剣技を学ぶ為に弟子入りしたのだ。

だからこそ、カイオウは人間という存在を認めていた。

人間側に立つことはないが、気にはかけてはいた。


「それにしても…」

赤ん坊の成長は、知らなかった。

カイオウの話をきいた限りでは、普通の人間ではない。

しかし、アルテミアと赤星浩一の子供だとしたら、普通の人間であるはずがなかった。

しかし…それが、正しいのか。

どうして、アルテミアは側にいない。

自分の子供…赤星浩一の子供ならば尚更だ。


ジャスティンの脳裏に、再び赤ん坊のアルテミアを抱くティアナの姿が浮かんだ。

表情は悲しげであるが、アルテミアを抱く腕に…躊躇いはない。

(それが…母親のはずだ)

ジャスティンはまた…わからなくなってしまった。


「先輩…」

ジャスティンは、空を見上げた。

そして、拳を握り締めると、無理矢理歩き出した。