「部長!やっぱり、あたしは」

窓からでたものの…廊下での戦いが気がかりな緑は、空切り丸を握り締めると、再び中に戻ろうとした。

多勢に無勢である。例え、乙女ブラックであっても、簡単に勝てるとは思えなかった。

「待て」

窓のサッシに手をかけた緑に、高坂が背中を向けたまま声をかけた。

「?」

振り返った緑は、高坂の背中から漂う異様な緊張に気付いた。

「向こうは、生徒会長に任せよう。こちらは、こちらでやることがある」

服部の形見となったトンファーを握り締めた高坂を見て、緑は窓のサッシから手を離した。

どんなに弱くとも、素手で前に出る高坂が、武器を手にしている。

それだけで、事は異常事態であることはわかった。

緑は、高坂が見ている方向に目をやった。

中庭の真ん中を歩いて来る…男子生徒の姿が目に飛び込んできた。

「中西剛史…」

緑は、近づいてくる男子生徒の名をフルネームで口にした。


「フッ…」

高坂は笑いながらも、目を細めていた。

「部長?」

緑は首を傾げた。

「あ、あ、あ」

高坂の前にいた輝が、震えながら後退った。

「どうやら…こっちが、本命らしいな」

高坂の足も震えていた。だけど、無理に笑うことで緊張を解こうとしていたのだ。

「部長?どう意味ですか?」

理解できない緑が、高坂の横に来た時…高坂の服の中からアラーム音がした。

カードシステム崩壊後、クレジット機能が残ったカードには、通信機能も正常に作動していた。 勿論、タダではないが、それらの機能がある為に、カードを手放すことはできなかった。

服の中から、カードをつまみ取り出すと、高坂は耳許に近付けた。

近づいてくる中西を見つめながら、高坂は頷いた。

「了解した」

「部長?」

状況が理解できない緑を残し、高坂も歩き出した。

真っ直ぐに、中西に向かって。