人影のほとんどない体育館裏に足を踏み入れた瞬間、九鬼は横合いからいきなり声をかけられた。

「九鬼さん」

少し低くくハスキーな声に、九鬼は振り向いた。

「お久しぶりね」

腰まである黒髪を束ね、九鬼に微笑んでいたのは、新聞部部長…如月さやかであった。

「如月先輩…」

影の番長とも噂される如月もまた、哲也により学園に半幽閉されていた。

その体力と優秀な頭脳により、ガンスロン二号機に搭載予定だったが、哲也達の死により助けられていた。

「でも、こう呼ぶべきかしら…乙女ブラックと」

「!?」

如月の探るようでいて、優しい瞳に、九鬼は息を飲んだ。

彼女も相当強い。

魔物を体技だけで、倒すことを目的とした竜殺拳を学んでいることは、有名である。

反射的に、体が臨戦体勢に入る九鬼に、如月は苦笑した。

「やめてくれる?この学園の救世主とやり合う気はないわ」

隙がない雰囲気に、温和な如月の笑顔に…九鬼は無意識とはいえ、構えたことを恥じた。

頭を下げると、

「先を急ぎますので…失礼します」

如月の横を通り過ぎた。

如月は、九鬼を動きを目で追いながら、

「香坂達なら、特別校舎に向ったわよ」

「!」

その言葉に、九鬼は足を止めた。

「一年の服部が、殺されたらしいの。まだ…確認はできていないけど」

「え!」

如月の方に振り返った九鬼の脳裏に、服部と最後に会った時の記憶がよみがえった。

(確か…あの女の後を追って…)

すれ違っただけで、九鬼に絶望を与えた女。

(危険だ!)

九鬼は振り向くと、走り出した。

「ありがとうございます」

如月にもう一度頭を下げると、一気に体育館裏から飛び出した。

その様子を見送りながら、如月は呟いた。

「頼んだわよ」


九鬼の姿が見えなくなると同時に、反対側の角から誰かが姿を見せた。

「貴様か?我等を呼び出したのは」