「追いかけるか?」

リンネが去った方を見つめながら、九鬼は一瞬迷ったが…諦めた。

そこに誰か…捕らわれの者がいるならば、九鬼は迷わず行ったであろう。

しかし、誰も捕らわれてはいない。

今行けば、確実に死ぬ。

それは、犬死である。

無謀であり、愚かだ。

この世界で戦い、人々を守っていくならば、一時の感情に流されてはいけない。

九鬼は、胸元を握り締めた。

どこか…相手の強さを確かめたい。

強き者と戦いたいという気持ちがあった。

それは、単なる戦士ならば…許されただろう。

しかし、人々を守ると誓った者には不要であった。

(突きだす拳よりも、払う腕を!)

それが、九鬼の基本であった。


「フゥ」

深いため息をつくと、九鬼は前を向いて歩き出した。

(まずは、乙女ケースを取り戻す)

九鬼は、誰もいない前方を睨んだ。



「生徒会長」

突然後ろから声がした。

「!?」

驚くよりも速く…反射的に回し蹴りを、後ろに叩き込んだ。

普段ならば、学校である為、間合いを取り、相手を確認するのだが、リンネの姿が脳裏に残っていたからか…すぐに攻撃に転じてしまった。

(くそ!)

その攻撃を悔いた。

しかし、声をかけるまで、まったく気配を感じさせなかった相手である。

この行動は、仕方ない部分もあった。


「どうなさいましたか?」

九鬼の蹴りは、トンファーを受け止められていた。

「初めて…後ろを取れましたよ。何か悩んでいらっしゃるのかな?」

「…何でもありません」

九鬼は安堵のため息をつくと、蹴り足を下ろした。

蹴りを受け止めたのは、ある意味普通の生徒ではなかった。

学園情報倶楽部の服部。

暗躍のエキスパートであった。

「何か用かしら?わざわざ後ろまで取って…」

九鬼の責めるような目に、服部は苦笑した。

「大した用ではないのですが…」

蹴りを防御したトンファーが折れて、廊下の床に落ちた。

「命懸けでしたね」