そんな九鬼の様子に、カレンは息を吐くと、ゆっくりと首を横に振った。


「だが…そうじゃないんだよ」

「え」

「単純な話だ。浩也は、アルテミアを産みの親と思い、ずっとそばにいた魔物を育ての親と思っている」

カレンは、ノブを引き、

「アルテミアは、人類を守る勇者。そして、育ての親も…人間を守るように、浩也に言い聞かせていた」

振り向くと、

「純粋な彼は、その教えを守る。例え…人間が嫌いになってもな」

微笑みながら、扉の向こうに消えた。


「や、山本さん…」

呼び止めようと手を伸ばした時、学園中にチャイムが鳴り響いた。


「あ…」

九鬼は、手を下ろした。

そのまま…床に目を落とした後、真上の太陽を見つめた。

眩しく、直視できない太陽を見ていると、九鬼の迷いが消えていった。


(すべての生きるものに、光を与える太陽。だけど、彼は何も思っていない。慈悲の心もない。ただ光っているだけだ。そして、人間も…)

九鬼は太陽から、視線を扉に向けると、真っ直ぐに歩き出した。

(太陽に、感謝はしない)

九鬼の心から、迷いが消えた。

(ならば、あたしはすべてを受け入れよう)

九鬼は決意した。

(もし…敵になったならば、持てるすべてをぶつける!)


チャイムが鳴り響く中、屋上を後にした九鬼が教室につくと、緊張したように次の授業を待っている浩也へ目がいった。

かちかちに固まっている浩也の姿がおかしくて、九鬼はクスッと笑った。

その声に気付き、隣に座った九鬼の方に、浩也は顔を向けた。

2人の目が合った。

九鬼は自然と微笑み、

「リラックスしましょう」

自然と口から言葉が出ていた。

「はい!」

元気よく返事する浩也が、おかしかった。

また笑ってしまった自分に、心の中で少し驚きながらも、九鬼はこう思った。

(すべては、なすがままに…)


ドアが開き、教師が入ってきた。

九鬼は、授業に集中することに決めた。