カードシステムの要であった塔の周りで、戦うアルテミアと男。

そして、男は…自らの心臓をアルテミアに差し出した。


(ジャスティン・ゲイ!)

アルテミアは心の中で、名を叫んだ。

「アルテミア!」

飛ぶ速さは、音速をこえた。僕の声も、かき消された。

「あたしらには、あたしらのやるべきことがある!」

数分後、アルテミアは空中で急停止した。

「ああ…」

僕は突然、目の前に現れた建造物に声を失った。

「どうやら…あいつも、待ってるらしいな」

アルテミアは口元を緩めたが、額から冷や汗が流れていた。

歴代の魔王が住む城は常に、特殊な結界が張られていて、場所がわかっていても容易に近付くことはできない。

それなのに、魔王の懐内に簡単に入れた。

「クッ!」

アルテミアは顔をしかめると、城の中には入らずに、ある場所に着地した。

そこは、向日葵畑。

172センチくらいのアルテミアでは、向日葵の高さの中に埋もれてしまった。

向日葵から漂う太陽の匂いと、吹き抜ける爽やかな風が、アルテミアを包んだ。

「お母様…」

自然と口に出た言葉に、アルテミアの瞳から涙が流れた。

頬を伝う涙を拭う暇もなく…アルテミアは、真横を睨んだ。

「お母様〜ねえ。魔王の娘ともあろうものが」

向日葵畑に、炎の道ができた。一瞬で燃え尽き、黒くなった土の上を、腕を組みながらゆっくりと近付いて来る女。

「てめえ!お母様の向日葵畑を!」

アルテミアの感情が一瞬で、怒りに染まる。

「弱く、脆く…そして、感情に支配されやすい。そんな女が、魔王の娘だなんて…恥じよ」

女は、アルテミアの前に来ると、見下げるように顎を上げた。

「リンネ…」

僕の声に、リンネは視線をピアスに向けた。

「赤星浩一」

殺気が、ピアスを射ぬく寸前、回転する2つの物体が飛んできて、一つになった。

「フレア!」

両手を広げ、アルテミアの前に立つのは…紛れもなく、リンネの妹フレアであった。

「フレア」

リンネは、フレアの目を見つめた。

真っ直ぐに力強く、守るものの為に身を盾にする妹を見て、リンネはフッと笑った。