「し、しかし、王よ!」

蛙男は立ち上がると、王の横顔を見つめ、

「アルテミア様のそばには、赤の王が…」

そこまで言ってから、息を飲み込んだ。

ライが横目で、自分を見下ろしていたからだ。

「!」

冷や汗が、全身に流れる蛙男。だが…それを拭う余裕もなかった。

「赤の……王?」

ライの言葉を耳にして、蛙男は自分の失態に気付いた。

それも二度目である。

蛙男は潔く、死を覚悟した。

しかし、ライは軽く笑うと、目線を変えた。目の前の空間を睨み付けた。

「やつが来ても同じだ。勝負がすぐにつく」

そう言った後、今度はにやりと笑った。

「よかろう。待ってやろう。お前達を始末してから、人間は皆殺しにしてくれる」

「は!」

蛙男はまた土下座のように、頭を下げた。

ライが、嘘をついているとは思えなかった。

赤の王を殺し、実の娘を殺す。

その思いを変えることは、できなかった。

(時代が変わる)

蛙男は震えながらも、新たな時代の流れを感じていた。





「そうか…。ライが覚悟を決めたか」

「ああ…」

アルプス山脈を越え、実世界でいうことのロシアまで歩いて到達したジャスティンの前に、ギラが立っていた。

「この前のように、気が狂っているようではないな」

「フン」

ジャスティンの言葉に、ギラは鼻を鳴らした。

空に太陽が浮かんでいたが、足下に絡み付く雪がジャスティンの靴を沈ましていた。

だからと言って、場の不利を嘆くことはない。

戦いは、場所を選ぶものではない。

「…で、その戦いに、俺を招待してくれるのかい?」

ジャスティンはそう言いながらも、雪を踏み締めて足場を作った。

「招待状はない。なぜならば…お前は、これ以上先には進めないからだ」

ギラが雪を踏み締めると、一瞬で足下の雪が蒸発した。

「成る程」

ジャスティンは、にやりと笑い、

「お前は、その戦いを見たくないのだな?」

ギラの目を真っ直ぐに見た。

「な」

絶句するギラに、ジャスティンは言葉を続けた。

「だから、ここにいる!気を紛らす為にな!」