一瞬で、一番近くにいた男の隊員の首筋を噛み千切ると、髭の男だった人間もどきは、女の匂いをかぎ分け…そのまま勢いを止めることなく、女の隊員に襲いかかった。

「きゃあ!」

女の悲鳴が、廊下にこだました時、周りにいた隊員達は正気を取り戻し、魔力を込めた銃を一斉に、人間もどきに向けた。

しかし、次の瞬間…再び隊員達の動きが止まってしまった。

信じられない出来事が、起こったからだ。

人間もどきに押さえ付けられていた女の体が、くの字にはね上がった。そして、女は白眼をむき、口をパクパクさせた…次の瞬間、女の腹を裂いて、巨大な血塗れの赤ん坊が姿を見せたからだ。

その姿は、肉片を丸めて重ねたような形だった。

「きいい!」

赤ん坊は奇声を発すると、銃口を向けて固まっている隊員の1人に飛びかかってきた。




「何事だ!」

副司令官は、廊下に響く無数の銃声を背中で聞いて、足を止めた。

「本部内で、発砲だと!?」

慌てて振り向いた副司令官は、来た道を走り出した。

「副司令!」

取り巻き達も慌てて、後を追った。




「は、は、は」

銃を握り締めながら、隊員達は戦慄していた。

すべての銃弾が命中したが、赤ん坊も…そして、髭の男だった人間もどきも少し足を止めただけで、まったくダメージを受けていないように見えたからだ。

「ひいいい!」

勇敢な戦士であるはずの隊員達であるが、産まれる瞬間を見、さらに人間に似た異形の姿をした赤ん坊を目にして、自分でも感じたことのない恐怖を味わっていた。

それは…人間としての根本的な恐怖かもしれなかった。

口だと思われる裂け目で、にやりと笑って見せる赤ん坊を見て、隊員は再び引き金を弾いた。しかし、倒れることはない。

「きゃははは!」

髭の男は、銃弾を背中に受けながらも、出産の痛みで即死した女の肉を喰らっていた。

そして、ある程度食べると、顔を上げて次の獲物を物色した。