「…」

無言で立ち尽くす九鬼は、校舎の屋上から空を見上げていた。

どこまでも広がる空。

その下にいるちっぽけな自分。

(嫌な胸騒ぎがする)

九鬼は、奥歯をぎゅっと噛み締めた。

(しかし…なぜか…安心感もある)

流れていく雲の動きを目で追いながら、無意識に九鬼は呟くように言った。

「天空…か…」

その呟きの意味することを、自分自身で気付いた九鬼は、苦笑いを浮かべ、

「甘いな…。だけど…」

九鬼は、空から目を床に向けると、

「強がる程の力はない」

ゆっくりと歩き出した。

そして、屋上から姿を消した。




その頃、朝鮮半島から魔界へと入ったカレンは、隠れるところのほとんどない平原で、片膝をついていた。

「な、な、舐めるなよ」

激しく背中で息をしながらも、鋭い眼光を周りに向けていた。

「あ、あたしを誰だと思っている!」

気合いを入れると、カレンは一気に立ち上がった。

ふらつきながらも、再び膝をつくことはない。

草原を吹き抜ける風にも、倒れそうになるが…カレンは唇を噛み締めた。

風が、生臭かった。血の匂いがした。

なぜならば…カレンの周囲に数えきれない程の魔物の死体が転がっていた。

激しく息をしながらも、カレンはブラックカードを取り出すと、一番近くの魔物から魔力を奪い取った。

そして、その魔力で治癒魔法を発動させると、一気に体力を回復させた。

「ふぅ〜」

腹の底から息を吐くと、カレンは拳を握り締め、体力の回復を確認した。

「いける!」

頷くと、次々にブラックカードをかざし、魔物から魔力を奪う。

そして、珍しい能力を持っていた魔物には、ピュアハートを突き刺し、能力をコピーした。

「しかし…」

カレンは、魔物の体からピュアを抜くと、針のように細い刀身を見つめ、

「あまり…使わないな」

感慨深く呟いた。