怯えている振りで、無難に乗りきろう。

そんな風に浅はかに考えた僕に、アルテミアは信じられないくらいキレた。

「何も言わないってことは、そう思っているか!てめえ!ぶっ殺すぞ!」

最近…これくらいで動揺しなくなった自分の成長を感じながら、僕は仕方なく答えた。

「あなたは綺麗ですから…そんな噂をしている人はつねにいます」

「そ、そうだろう」

なぜか照れるアルテミアの反応を見て、次からは素直に誉めようと心からそう思った僕だった。

「まあ〜いい」

アルテミアが、ライトニングソードを一振りすると、その手から分離して、2つの回転する物体になった。

そして、遥か彼方に消えて行った。

「この島で、最後だな?」

アルテミアは、気を探った。

「うん。多分大丈夫のはず」

僕も気を探ってみた。

もう相手の異質な気も、理解できていたから、戸惑うこともない。

「フゥ〜」

アルテミアは安堵の息を吐くと、上空に飛び上がった。

そして、そのまま…太平洋の上空を飛び去っていた。


「あれが…天空の女神か」

その様子を、小さな島の岬で見送っている者がいた。

元ブレイクショットの1人…ダラスである。

防衛軍崩壊後、新たな戦士の育成に人力を尽くしていたダラスは、ジャスティン・ゲイを長として結成された人類防衛軍を呼び掛けに応え、再び老体に鞭を打って、参加を決めたのであった。

ダラスは、アルテミアの去っていた方向に頭を下げた。

(…ということは、あの少年も一緒か)

ダラスの脳裏に、かつて砂漠の町で出会った少年の姿が浮かんだ。

(赤星…浩一君だったな)

自然と笑みがこぼれたが…すぐに凍りついた。

人間もどきが、襲った後の町の惨状を目にしたからだ。

アルテミアによって、被害は最小限に抑えられたが…それでも、失った命は多い。

(防衛軍の結成とほぼ同時に起こった…この襲撃の意味することは何だ?)

ダラスは、嫌な予感に震えていた。

(それに…さっきの人間の姿をした…化け物は?)

ダラスだけではなく、誰もが答えを持ってはいなかった。