さよなら、もう一人のわたし (修正前)

 あたしは昨日の彼女の姿を思い出していた。演技の経験がないといっても彼女は十分上手だった。少なくともあたしよりはそうだ。

「でもそんなチャンス滅多にないかもしれないし」

「あたしは女優になりたいわけじゃないのよ」

「何になりたいの?」

「……言えない」

 千春は顔を赤く染めた。

「そんなに恥ずかしいものになりたいの?」

「そんな誤解を招くような言い方しないでよ。ただ普通の人生を送りたいの。人の注目も浴びたくないから」

 千春の瞳に影が映るのが分かった。

 彼女はあたしの知らない何かを知っているのかもしれない。

 千春のそんな瞳を見ているとそう思えてきた。