さよなら、もう一人のわたし （修正前）

　館内は意外と空いていた。大学生以外はもう夏休みを終えている時期だからかもしれない。

　館内にいるのは大学生くらいのカップルや友人同士、年配の夫婦が数組すれ違う程度だった。

　あたしがその中を歩いていたとき、あたしの前方を歩くその姿に思わず息を呑みこんだ。

　あたしは思わず物陰に隠れる。

　どうして彼がここにいるのだろう。

　そんなことを考えても分からないし、彼がここにいてもおかしくない。

　今日は土曜日なので、彼の会社が休みでもおかしくはないのだ。

　そこにいたのは尚志さんだった。

　彼に会うのはあのとき以来だった。

　ああやってキスをされて、顔を合わせにくかったのだ。

　あたしは彼が早くどこかに行ってくれることをただ祈っていたのだ。

　そのとき、あたしの目の前を背の高い女性が通り過ぎる。

　あたしが彼女が誰か認識したときには、キーの高い声が聞こえてきた。

「成宮君？」

　あたしはその声が誰の声かも知っていたのだ。

　物陰から声のしたほうを見た。

　そこにはいつかのクリスマス、尚志さんと一緒に歩いていた彼女がいたのだ。