さよなら、もう一人のわたし (修正前)

「どっちでもいいですよ。そのまま食べても意外と平気ですから。家で調理するときは面倒なときもあるし」

 彼は苦笑いを浮かべていた。

「意外と大雑把なんだね」

「母親に似たのかもしれません」

 まただ。彼の前で母親の名前を出さないと決めたのに。

「そういえば、家に電話をしたのか?」

「していませんよ?」

 大まかな予定は伝えているので、あたしが今日撮影地に向かったことは知っているはずだ。

「私が準備をしておくから電話をしてきたらいい。廊下にある電話も使える状態になっているから」

「後からでも」

「遅くなったら眠っているかもしれないだろう?」

 あたしの母親が夜が苦手だった。それを知っているのではないかと思える言葉だった。

 でも働いている彼女に対するただのねぎらいの言葉なのかもしれない。

「分かりました」

 そう思っても少しだけ彼の記憶の中に母親の存在が残っている気がして嬉しかった。