さよなら、もう一人のわたし （修正前）

　もうあたしの前にオーディションを受けた人たちは控え室に戻ってしまったようだ。


　あたしは今だ鳴り止まない心臓を押さえるために、椅子に腰を下ろす。


　そして、何度も溜め息を吐いた。


「九番の方どうぞ」


　そう言って先ほどあたしに出て行ってよいといった人が扉を開けた。


　彼があたしを見て、まだ居たのかと言いたげに一瞥した。


　先ほどの少女が立ち上がり、部屋の中に入っていく。


　あたしは控え室に戻ろうと立ち上がったときだった。


　目を瞑っていた少女があたしの腕を掴む。


　とっさのことにあたしは何も言えずに彼女を見た。


「あなた、悲惨ね」


　彼女は大きな瞳であたしの顔を覗き込む。彼女は大人っぽく見える前原香奈枝と違い、若干幼く見える。


「何がですか？」


「だって彼女の前なんて絶対比べられるわよ。その様子じゃあまり話せなかったみたいね」


「あなただって彼女の後ろでしょう？」


　彼女は意味ありげに笑った。